シロイヌナズナのファイトクロム突然変異体HY1は第2染色体上にマップされていた。HY1とその両側にマップされる視覚的に捉えられることのできる変異(erとas)との2重変異体(Landsbergエコタイプ)を異なったエコタイプの野生型(Columbia)と交雑し、F2世代で一方の変異のみをもつ植物を、as側で89個体、hy1側で9個体選抜し、次代(F3)よりDNAを調製した。エコタイプ間でのRFLPマーカーを利用することにより、遺伝学的には0.1cM、物理的には20Kbの解像度であることが期待された。そこで、シロイヌナズナの酵母人工染色体(YAC)ライブラリーを用い、コスミドRFLPマーカー6842を起点に染色体歩行を行った。YACクローンからの末端DNAの回収には、Inverse PCR法を利用し、隣接するYACクローンを単離した。その結果、約1.3Mbの染色体領域が連続したYACクローンでカバーされた。また物理地図と遺伝地図を対応づけるRFLP解析を行い、HY1遺伝子を含む領域を遺伝学的に約80kbまで限定した。HY1座で期待される遺伝子型を示すDNA断片を植物形質転換用ベクターにサブクローンし、変異体に導入した。その結果、変異体の表現型を相補する形質転換体が得られ、約10kbのDNA断片上にHY1遺伝子が存在することが明らかになった。この領域のDNAの塩基配列を決定し、この領域に少なくとも4種の遺伝子が存在することを明らかにした。現在その発現用式を野生型と変異体のRNA解析により光依存性(光の誘導性、有効波長)および組織特異性の点から解析を続けている。また、この研究で用いた1.3Mbの連続するYACクローンと上記の精度もつと期待されるF2植物由来のDNAを用いて、ゲノム上での物理距離と遺伝学的距離を比較した。ゲノムの全サイズと組替え価の総和から、シロイヌナズナでは、1cMが200kbになると計算されるが、1/10以下の組替え頻度しかない領域もあり、遺伝学的距離と物理学的距離は、部分的には、必ずしも一致しないことを示した。
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