研究概要 |
ダイネミシンAは現在知られている最も強力な抗腫瘍性抗生物質の1つである。この強力な活性は、エンジイン部分の芳香化反応(Bergman反応)によって生成した炭素ラジカルがDNAを酸化的に切断することによる。既にダイネミシンAの活性発現に重要な部分を抽出したモデル化合物の合成に成功していたが、今年度そのDNA切断活性を測定した結果、実際にDNA切断活性(一本鎖切断能)があること、さらにガン細胞の増殖阻害活性を示すことを明らかにした。 また、ダイネミシンAの絶対立体配置は未決定であり、その情報を得るためと鏡像体間での活性の違いを見るために、モデル化合物の不斉合成を検討した。ラセミ体の合成のルートによればプロパルギルアニリンの不斉炭素が、残り全ての不斉炭素の立体化学を決定している。従って、このアセチレンの立体選択的な導入法が最大の課題であった。そこで、1-(4'-キノリン)エタノールに対するアセチリドの付加反応において全く新規な1,4-遠隔不斉誘導を検討し、1:13という極めて高い選択性を実現することに成功した。原料の光学活性なアルコールは、固定化リパーゼを利用しラセミ体を有機溶媒中でエステル化することで、両鏡像体をほぼ完全に分割し調製した。以上の結果をもとに両鏡像体の合成を完了した。現在、DNA切断活性、およびガン細胞増殖阻害活性について検討中である。 さらに芳香環部分の合成については、計画通りalpha-ブロモエノンと芳香族スズ化合物をパラジウム触媒を用いてカップリングし酸処理することで、種々様々なキノリン誘導体の合成に成功した。これによってダイネミシンAのC、D、E環を全てそろえたモデル化合物の合成が可能となった。
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