研究概要 |
単純なアントシアニンは中性の希薄溶液中では不安定で速やかに水和退色するが、対照的に極めて安定なアントシアニンがある。これらの色素は、主として青色の花弁より単離され、いずれも分子内に複数個の芳香族有機酸を持つことから多アシル化アントシアニンと総称される。特異な安定性は、芳香族有機酸が母核の上下にサンドイッチのように分子内会合して、水和を抑えているためと説明できる。各種の機器分析データを用いたコンピュータ支援のコンフォーメーション解析によりこの会合機構の解明を試みた。 リンドウ青色花弁色素ゲンチオデルフィンは、デルフィニジン母核にグルコース3分子とコーヒー酸2分子(C1,C2)を持つジアシル化アントシアニンである。この色素の酸性溶液中での1HNMRを解析することにより、母核と糖の相互関係、コーヒー酸の距離情報、糖の6位の立体配座情報を得た。これらのデータをもとにした解析により、酸性溶液中では2個のコーヒー酸のうちB環グルコースに結合したコーヒー酸(C2)のみが母核に会合することを明らかにした。部分加水分解により得た2種類のモノデアシル化ゲンチオデルフィンについて同様の会合構造の解析を行ったところ、C2は分子内会合しており、C1は会合しないことがわかった。コーヒー酸の結合した糖6位のコンフォーメーションをさらに詳細に比較すると、C1が結合した糖6位はggコンフォーマ-であった。これにより、糖のコンフォーメーションとアシル基の分子内会合が直接的な関係にあることが明らかにできた。 本研究により、多アシル化アントシアニンの分子内会合の鍵が糖分子のコンフォーメーションであることが示された。今後、中性溶液中でのアントシアニンの会合構造をさらに精密に明らかにすることにより、花色の発現機構を解明できるものと考える。
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