経口投与された抗原に対しての全身系免疫応答は抑制されることが明らかになっている。この経口免疫寛容という現象は、消化管内に多量に存在する食品抗原に対する過剰な免疫応答を抑制し、食品アレルギーの抑制機構の一つであると考えらている。本研究では、経口投与された抗原は消化酵素の作用を受けることを考慮し、牛乳アレルゲンタンパク質であるウシカゼインの消化酵素分解物により経口免疫寛容が誘導されるかどうか検討した。 主に分子量6000以下のフラグメントからなるカゼインのトリプシン分解物を調製し、これを含む飼料をマウスに経口投与した。カゼイン分解物飼料を摂取したマウスにおいては、カゼインに対しての抗体産生応答、およびリンパ細胞のin vitroでの増殖応答がカゼインを摂取しない対照群と比較して弱く、経口免疫寛容が誘導されたことが示された。 カゼイン分解物中の経口免疫寛容誘導フラグメントは、免疫応答を抑制する機能を有するT細胞の認識部位となっている可能性がある。そこで本実験系において抑制性T細胞が作用しているかどうかを、カゼインを経口投与したマウスの脾臓細胞を別個体に移入することにより検討した。その結果、弱い抑制作用が認められる場合もあったが、T細胞による能動的抑制が主なメカニズムではないことが示唆された。 本研究により牛乳アレルゲンタンパク質由来ペプチドフラグメントによっても経口免疫寛容が誘導されることが明らかとなった。経口免疫寛容誘導能の強いフラグメントを明らかにすることができれば食品アレルギーの予防・治療に利用できる。現在化学合成したペプチドを用いて経口免疫寛容誘導フラグメントの同定を試みている。
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