研究概要 |
シイタケ菌糸体の自己・非自己識別機構を明らかにする研究材料として、対峙培養の際に、帯線を形成しない変異株(帯線非形成変異株)の探索を行なったが、変異株の検出には至らなかった。そこで、帯線形成の遺伝様式を解明するために、3種の一核菌糸体(A,B,C)を用いて三系交雑株{(A×B)spore×C}約100種類と単交雑株(A×C)間、ならびに戻し交雑株{(A×B)spore×AあるいはB}約100種類と親株(A×B)間での帯線形成をそれぞれ調査した。その結果、形成された帯線は明瞭なものから微弱なものと多様であったものの、単交雑株または親株に対して帯線を形成しなかった菌株数はそれぞれのおよそ4分の1であった。このことから、帯線形成の可否は少数の主動遺伝子によって支配され、突然変異誘発処理により帯線非形成変異株の作成は可能であると考えられた。 次に、帯線形成に関与するタンパク質を探索するために、上記分析において明瞭な帯線を形成した二核菌糸体同志および帯線非形成二核菌糸体同志を液体培地で混合培養し、菌糸体から可溶性タンパク質を分画して、二次元電気泳動分析を行なった。しかし、帯線形成との関与を示唆するタンパク質を検出することはできなかった。 次に、帯線形成組合せと非形成組合せの二核菌糸体同志の接触部における菌糸体の形態変化を観察した。菌糸体の接触前においては、いずれの組合せにおいても形態変化は認められなかったが、接触後5日目に、帯線形成組合せにおいてのみ接触面に対して垂直方向に菌糸束が形成された。この結果から、シイタケ菌糸体は接触後5日以内に異菌株を認識し、上記のような特異的反応を誘起するものと考えられた。 本研究によって、シイタケ菌糸体の自己・非自己識別機構を解明する基礎的知見が得れれた。
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