農産物の超音波特性に与える細胞間隙中のガスの体積分率の影響を明らかにするために、農産物を均質な粘弾性媒質中に十分小さな気泡が分散した系と考え、縦波音速と気泡率の関係を理論化し、実験結果と比較した。理論化にあたっては、(1)連続相及び粒子は等方性線形粘弾性体(2)粒子は球形(3)連続相と粒子の境界面における応力及び変位の各成分は連続(4)熱伝導や拡散などの輸送現象はない、という仮定のもと、self-consistent approximationを用いて得られた弾性定数から無限媒質中の縦波音速を定式化した。連続相の体積弾性率は、その成分の90%以上が水であることから水の値を用いて計算したところ気泡率が0のときその音速は水の音速とほぼ同じになり、気泡率が上がるほど音速は小さくなる結果が得られた。寒天中に中空のマイクロカプセル(径10〜60ミクロン)を分散させた試料での実験結果もこの理論値によく一致した。またガスの圧縮率は細胞実質を構成する液体の圧縮率よりもはるかに大きいことを利用し、農産物を加圧して媒質中のガスの体積分率を減少させながら音速を計測する事で、音速と気泡率の関係を得ることを試みた。その結果、農産物においても前述の理論式とよく一致することがわかった。動物組織のようなソフトマテリアルでは、体積弾性率に比して縦弾性率や横弾性率は圧倒的に小さいため、音速は体積弾性支配となり、かつその成分のほとんどが水であることから体積弾性率は水とほぼ等しく、音速も水の音速1500m/sとほぼ同じ値となる。農産物も細胞間隙中のガスの存在がなければ同じことがいえるが、ガスの体積分率が増すにつれて、各弾性率が減少、特に体積弾性率が急激に減少することで音速も水の音速をはるかに下まわる値になると考えられる。以上から農産物の非破壊品質評価に超音波の音速パラメータを用いようとする場合は、農産物中のガスの存在に常に念頭においておく必要があると思われる。
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