本研究では、ウシヘルペスウイルス1型(BHV-1)主要糖蛋白のうちgI、gIII、gIVの3種、並びに本ウイルスではこれまで存在が証明されていなかったgH糖蛋白をバキュロウイルスベクターで大量発現し、その細胞側標的分子を同定することを試みた。 gIII及びgIVに関しては各々の糖蛋白を発現する組換え体バキュロウイルスが得られた。これらにより昆虫細胞で産生された組換え体蛋白は、BHV-1感染哺乳動物細胞で産生された場合に比べ何れも分子量が減少していた。各種レクチンとの反応性から、各々糖鎖の付加が高マンノースあるいはハイブリッド型に留まっているためと考えられた。抗原性に関しては、何れも既存の単クローン性抗体パネルとの反応性を保持していたことから、概ね保存されているものと考えられた。gIII産生昆虫細胞にはC57BLマウス赤血球吸着活性が認められたことから、本組換え体gIIIは細胞膜上に輸送され機能的に発現していることが確認された。gIVに関してもPVDF膜上に固相化された牛腎由来細胞膜画分との結合が認められたことから、活性を保った状態で発現していることが予想された。これらの組換え体糖蛋白を、SDS-PAGEで分画後PVDF膜上に転写固相化した牛腎由来細胞膜成分と反応させたところ、gIIIでは多数の細胞膜蛋白に結合することが判った。本成績は、gIIIが脊椎動物細胞膜上に普遍的に存在するヘパラン硫酸に吸着することを示した当研究室の以前の成績を支持するものであった。一方、gIVでは分画後の細胞膜成分との反応性は認められなかった。この成績は、gIV相同蛋白であるヒト単純ヘルペスウイルスgD糖蛋白の標的分子が極めて少量しか存在しないという報告と一致しているのかもしれない。今後はより高感度の検出系を開発すると共に、細胞膜分画の調整法を改善する必要があろう。gI及びgH糖蛋白に関しては、組換え体ウイルスは得られたものの蛍光抗体法レベルでの発現の確認には至らなかった。GC比の高いBHV-1遺伝子を2kb以上に渡り保持し続けることはバキュロウイルスの系では難しいのかもしれない。
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