研究概要 |
ラットの糞便及び鼻腔内から分離されたエッグヨ-ク反応陽性を示した同定不能ブドウ球菌株及び他の研究者から送付された同定不能とされたコアグラーゼ産生Staphylococcus菌株について分類学的研究を試みた。まず、Igimiらの報告したStaphylococcus felisの新菌種報告の論文(Int.J.Syst.Bacteriol.1989.39:373-377)に記載されている生化学性状試験、糖分解性状試験を行い、各菌株の表現型による群分けを行った。得られた菌群の内、F,G,H群については、特にDNAレベルでの検討が必要と思われた。F群はコアグラーゼ陽性で糖分解性状を除く生化学性状は Staphylococcus aureusに類似しているが、キシロース及びセロビオースの分解能を有していた。G群はF群の性状と似ているがキシロース分解能は無くセロビオース分解能を特徴とする菌群であった。H群は糖分解性状はG群と類似しているが糖分解を除く性状は、F、G群とは明らかに異なっていた。ブドウ球菌の分類ではキシロース及びセロビオースの分解能は重要な性状で、既知の病原性のある菌種では、これらの性状が陽性である菌株は報告されていない。マウスを用いて調べた膿瘍形成能及びマウス致死試験では、F及びG群の菌株は、S.aureus菌株と同等かそれ以上の病原性を示した。そこでDNAレベルの検討を行った。フォトビオチンを用いたミクロタイタ-法によるDNA相同性試験ではF群とG群は74〜90%の高い相同性を示し、同一菌種と思われた。両菌群はS.aureusのType strainと53〜55%の中程度の相同性を示し、それ以外の全てのStaphylococcus菌種とはいずれも低い相同性であった。従ってF、G群はS.aureusの亜種とすることが妥当と思われた。一方、H群は既報のいずれの菌種とも低い相同性であり、新菌種とし報告することにした。
|