牛ウイルス性下痢粘膜病(BVD-MD)には様々な併発症が生じ、BVD-MDと糖尿病との関係は種々検討されてきている。ウシ糖尿病では自己抗体の一種である抗膵島抗体(ICA)が深く関与しており、BVD-MDウイルス誘発糖尿病において高率にICAが検出されたことを平成3年度本研究(課題番号03760222)において報告した。今回、BVD-MDウイルスの膵臓内の局在をin situハイブリダイゼーション(ISH)法により検索し、BVD-MDウイルスの膵臓への直接的影響の可能性を検討した。 供試牛として、PCR法によりBVD-MDと診断された粘膜病牛6頭および持続感染牛1頭を用いた。粘膜病牛6頭のうち3頭は糖尿病を併発していた。全頭の末梢血白血球を用いてBVD-MDウイルスの遺伝子型別を行った。ISH法には2種類のプローブ(BVDproおよびHCpro)を用いた。BVDproはPCR法によりF1-R1のプライマーペア-で増幅されるBVD-MDウイルスの遺伝子領域の一部を、HCpro同じくHCF1-HCR1による増幅領域の一部を、DNA合成装置で合成しDIG標識したオリゴヌクレオチドである。これらのプローブを用いてISH法を行ったところ、いずれの症例においても膵島領域における陽性反応は確認されなかった。しかし、全例の膵外分秘部においてBVDproあるいは両プローブに対する陽性反応が認められた。HCproのみに陽性反応を示す症例は認められなかった。糖尿病牛3例中2例においてこのISH法によるウイルス検出結果と、末梢血白血球を用いたPCR法によるウイルス遺伝子型別とが一致しなかった。また、糖尿病を併発していないBVD-MD牛の膵臓にもウイルスが感染していることが確認された。 以上の成績および先に報告したICA検出結果とを総合して考察すると、BVD-MDウイルス誘発糖尿病はウイルスの膵臓に対する直接的作用によるものというよりはむしろ、ウイルスが宿主になんらかの免疫異常を誘起し二次的に膵臓に障害をおよぼす可能性が示唆された。
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