1 ブロモデオキシウリジン法による分裂期細胞の検索 ラット肝部分切除後の肝細胞分裂は、術後 1日をピークとして3日ごろまで認められ、はじめ門脈周囲域で盛んで、やがて小葉全体に及んだ。これに対し、血管壁の細胞分裂は、肝細胞にやや遅れ、術後1日半ころ小葉中心静脈とその付近の小葉内毛細血管(類洞)に始まり、2日ころ小葉全体の類洞と小葉間動静脈に広がって、ゆるやかなピークを示し、4日ころまで認められた。 血管の内皮細胞とそれを取り囲む伊東細胞や血管平滑筋細胞の分裂は、同時に起こった。再生肝血管壁の分裂細胞は散在性に分布し、腫瘍組織や炎症巣の血管出芽増生端にみられるような分裂細胞の集中はなかった。 2.走査電顕、透過電顕による微細構造の検索 分裂中の類洞内皮細胞や伊東細胞に基本的な微細構造の変化は認められず、内皮細胞の窓は開き、伊東細胞の突起は類洞を輪状に取り囲んでいた。細胞は、微細形態を保ったまま二分し、新しく成長する部分にも同様の微細構造が速やかに形成されると考えられる。術後2日から4日の類洞では、しばしば内皮細胞間に大きな隙間がみられ、それをクッパー細胞が膜状の突起を広げて被っていた。 再生中の肝実質では、肝細胞が、正常肝のような細胞一個の厚さの細胞板ではなく、新生児や下等動物の肝のみられるような腺房様の構造に配列しているのが走査電顕で見いだされた。肝細胞の腺房様配列は小葉中心部より門脈周囲域で顕著に認められ、前者の領域では術後1日半ごろの短い期間に限ってみられるだけだったが、後者では術後1日から長期間明瞭に認められ、術後8日ころようやく正常の肝細胞板の構造に戻った。これらの結果は、血管増生と肝細胞増殖との間の時間的、空間的なずれが、再生中の肝にみられる特殊な肝細胞の配列やその後の再配列に影響を及ぼすことを示している。
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