膵beta細胞においては細胞外グルコース濃度が11.1mM以上である場合、spike‐burstが繰り返し発生する。spike‐burstとspike‐burstとの間のsilent phaseがどの様な機構で発生するのかを解明するために、スパイクが発生するあるいは発生しない条件下で細胞内ATP濃度を測定することは重要であると考えられる。本実験ではマウスよりランゲルハンス島を単離し、低Ca^<2+>および低Na^+などの条件下でATP濃度を測定した。Ca^<2+>‐free Hanks溶液中でランゲルハンス島を30min間incubateした場合では、正常Ca^<2+>濃度のコントロールに比較して細胞内ATP濃度は約2.6倍に上昇していた。N‐methyl‐D‐glucamineでNaClを置換した25mM Na^+Hanks溶液でincubateした場合では、コントロールに比較して細胞内ATP濃度は約4倍に上昇していた。Na^+/H^+交換輸送の抑制剤である。amilorideの投与により、細胞内へのNa^+の流入を抑制した条件下で実験を行った。amilorideを作用させた細胞では細胞内ATP濃度は約4倍に上昇していた。一方、Na^+/H^+交換輸送体であるmonensinの投与により、細胞内へのNa^+の流入を促進した条件下で実験を行った結果、細胞内ATP濃度はコントロールに比較して1/2以下に低下していた。これらのことはspike‐burst発生中細胞内Ca^<2+>濃度が急速に上昇し、Na^+/Ca^<2+>濃度が上昇すると共にNa^+K^+‐pumpが活発に働き細胞内ATP濃度が低下するという予想を完全に支持するものである。従って、spike‐burstに引き続いて起こる再分極は細胞内ATPの低下の結果であると考えることができる。glucagonの作用については、細胞外からglucagonを作用するとspike‐burstのdurationが長くなり、細胞内Ca^<2+>濃度が上昇した。これらのことから、glucagonは細胞内ATP濃度を上昇させる作用があると推測された。
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