研究概要 |
突然変異と対立遺伝子欠失によるp53遺伝子の異常が大腸腺腫から早期癌への転換に関与していること、突然変異には6つのホットスポットがあることをすでに見いだしている。p53遺伝子の異常はあらゆる臓器の癌で検出されており、細胞の癌化に極めて重要であると考えられる。しかし、正常p53蛋白質の癌抑制機序やそれに対する変異体の作用については未だ十分には解明されていない。そこで本研究は大腸癌に多発しているp53遺伝子の変異の意義を明らかにするため、それらの変異を導入したP53cDNAを作成しその生物活性の差異を解明することを目的としている。 6つのホットスポットを含む変異を有するp53cDNAを12種(175His,213stop,238Tyr,238Arg,245Ser,245Asp,245Val,248Gln,248Trp,273Cys,273His,282Trp)合成した。各変異体をCMVプロモーターとneo耐性遺伝子を含む発現ベクターに繋げ、活性ras遺伝子による初代培養ラット胎児繊維芽細胞(REF細胞)の形質転換に及ぼす影響を調べた。11種のミスセンス変異体は活性ras遺伝子との協同作用を示したが、その効率は変異の種類によって異なっていた。ナンセンス変異体と正常p53cDNAにはこのような作用は認められなかった。さらに8種のミスセンス変異体については、活性ras遺伝子と同時にREF細胞に導入して形質転換細胞を単離することができた。これらの細胞には外来性p53DNA、mRNA、蛋白質および外来性ras遺伝子の存在が認められ、ヌードマウスへの造腫瘍性も観察されたが、DNA量を調べるとaneuploidのものとdiploidのものがあった。これらの結果からp53遺伝子の変異によって悪性転換の機序が異なることが示唆された。
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