研究概要 |
大腸菌耐熱性下痢原因毒素I(STI)は、菌体外に積極的に分泌されるペプチドである。本毒素は72個のアミノ酸からなる前駆体として生合成され、その構造はプレ領域,プロ領域および成熱STI領域の3領域から構成されている。これまでの研究により、プロ領域の存在が本毒素の効率の良い内膜通過を惹起すること,プロ領域中の保存アミノ酸部位,特に29位から31位に存在する荷電性アミノ酸部位が本機能の発現に寄与すること,STIの活性構造構築に必要な分子内ジスルフィド結合は、大腸菌ペリプラスム中に局在するDsbA酵素によって触媒されることを明らかにした。 本年度は、STI分子内ジスルフィド結合形成についてさらに詳細に検討し、以下の成績を得た。 1.プロ領域の39位に存在するシステイン残基を部位特異的に種々のアミノ酸に置換した。得られたミュータントでは、いずれもDsbA酵素が機能しなかった。このことは、DsbAの作用に39位のシステイン残基が必要であることを示している。またこれらのミュータントでは、培地中に分泌される毒素分子のプロセッシングの位置が変化した。従って、39位のシステイン残基は毒素前駆体の正常なプロセッシングに対しても重要な残基であることがわかった。 2.STI遺伝子を発現したDsbA欠損株の培養上清中に、精製DsbAを加えるとST活性の上昇が認められた。さらにこの培養上清中から単離した毒素分子は、正規のプロセッシング部位で切断を受けた成熟領域のみで構成されていた。以上の結果より、STIの外膜通過は適切なプロセッシングが生じることにより引き起こされ、分子内のジスルフィド結合形成とは非依存的な過程であることが明らかとなった。
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