ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(TK)やインターフェロン(IFN)の遺伝子をレトロウイルスベクターに組み込み、細胞や個体に導入することでレトロウイルス感染症の治療(主に母子感染)応用できるか検討した。 1.TK プロモーター領域やポリA領域を除去し、レトロウイルスベクターに組み込み、TKを持つリコンビナントウイルスを得た。これを線維芽細胞株やColon 26細胞株に感染させることでTKを導入した。抗ヘルペスウイルス薬であるガンシクロビルを加え、TKの活性を検討した。これらの細胞株は、1000倍から20000倍の高感受性を示し、臨床で使用される投与量で完全に死滅した。in vivoにおいてもTKを導入した腫瘍細胞は通常量のガンシクロビル投与にて消失した。このようにTK導入によって、細胞はガンシクロビルに対し高感受性になることが証明された。母子感染した児の発症を阻止するためには、ヘルパーウイルスによってTKを持つリコンビナントウイルスがレスキューされ、増殖されることが必要であるが残念ながらレスキューは確認されなかった。ヘルパーウイルスに類似したベクターの改良が必要と思われた。 2.IFN IFNをマウスエイズウイルスの持続感染株に加えたところ、ウイルスの産生量が1/100に低下した。一方、非感染細胞をIFNで前処理することでウイルスに対し、100倍以上抵抗性になった。しかし、抗ウイルス活性が強力なため、レトロウイルスベクターに組み込んでもリコンビナントウイルスは得られなかった。遺伝子を導入することよりもリコンビナントIFNを投与するほうが治療に有効と思われた。
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