心筋に対する低酸素後の急激な酸素の再導入が活性酵素を生じる結果、心筋細胞膜の脂質過酸化反応を招来する事を利用し、心筋内過酸化脂質を測定し超早期の心筋虚血の診断に応用することを目的とし、次の実験を行った。 体重7〜12Kgの雑種成犬18頭を用い、ペントバルビタール麻酔後気管内挿管、人工呼吸下で開胸し心臓前面を露出し、左冠状動脈本幹を回旋枝の分岐部直前に剥離結紮した。実験系は大別して再灌流系と非再灌流系に分け、1時間結紮後30分再灌流した群、2時間結紮後30分再灌流した群、1時間結紮群、2時間結紮群、結紮後30分以内に心停止した群、開胸のみの群の6群、それぞれ3頭ずつとした。摘出した心臓から左心室の前壁と側壁、心尖部、心室中隔の心筋を採取し、過酸化脂質量をTBA(チオバルビツール酸)法を用いて測定した。また同一部位より切出して、パラフイン包埋後薄切し、ヘマトキシリン塩基性フクシンピクリン酸(HBFP)染色を施した。 その結果、結紮処理した5群れはいずれも開胸のみの対照群と比べて過酸化脂質量はほぼ3〜4倍となったがこれら5群間では明らかな差はなく、心筋の虚血再灌流のみなず虚血障害時にも心筋内で過酸化脂質が産生されること、つまり活性酸素が生じていることが明らかとなった。またTBA法を用いて心筋の過酸化脂質量の測定する方法はHBFP法による病理組織学的方法に比べて、再灌流や長時間の虚血による心筋の障害のみならず30分以内に心停止した例でも生前の心筋虚血の状態を定量的に捉えられる点で優れており、早期の心筋虚血の診断に充分応用可能であることが示唆された。
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