ラット摘出灌流心において酸性再灌流(AR)がpH依存性に再灌流性不整脈の発現を抑制することを従来報告してきた。本研究ではARに引き続く灌流液pH正常化が惹起する新たな不整脈発現作用とAR持続時間との関係、さらにこの催不整脈作用に細胞内Na^+濃度調節機構が如何に関与するかを検討する目的で心筋のNa^+/K^+-ATPase活性を測定した。実験モデルとしてLangendorff灌流したラット摘出心を用い、左冠動脈床に10分間の虚血を施したのち再灌流した。pH7.4で再灌流した対照群での再灌流性心室細動(VF)の発生頻度は92%と高率であったのに対し、再灌流初期1/2分、1分、2分、4分間AR(pH6.6)を行うとVF頻度は40%以下とARの持続時間に関わらず低値であった。しかしARに引き続き灌流液pHを7.4に変換後1/2分、1分AR群では高率にVFが出現し最終的なVF頻度は対照群と同等となった。これに対し2分間以上のARに引き続くpH正常化は新たなVFを誘発しなかった。一方、別の実験系において左室自由壁のNa^+/K^+-ATPase活性をSchwartzらの方法に基づき細胞化学的に測定すると、10分間の虚血により虚血前の平均23.1%に低下するものの、AR1/2分、1分、2分、3分、4分で各々21.8%、27.3%、29.4%、50.4%、67.0%と継時的に変化し、3分以上のARで虚血終了時に比し有意な回復を示した。以上より灌流液pH正常化に伴う催不整脈作用は2分間以上のARを持続したのち、すなわち心筋のNa^+/K^+-ATPase活性が一定以上回復した後には著しく減弱する。これは細胞内Na^+濃度調節機能が再灌流性不整脈の重要な要因であることを示唆する。
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