早期老化により知的退行をきたしアルツハイマー病と同様の神経病理学的変化を認めるダウン症候群を対象とした神経放射線学的研究を行った。最初に成人10例のダウン症候群患者を対象としてMRIを施行した。また対照群として年令相応の健康成人にも同様の条件で施行した。内包、小脳虫部、脳幹部等の正中矢状構造、海馬の大きさの変化についてはT1強調像、小脳大脳の皮質白質の質的変化についてはT2強調像、プロトン密度像を用いて検討した。結果として、正中矢状断での橋の垂直水平幅、小脳虫部垂直幅、内包長軸長は対照に比較し明かにダウン症候群は減少していた。小脳虫部水平幅、内包短軸長は対照と比較し有意な差は認められなかった。海馬については、痴呆の発症したダウン症候群は痴呆を合併しないものおよび対照群と比較し、明かに萎縮性変化を示していた。大脳半卵円中心はT2強調像において明かに信号強度が上昇していた。しかし、側脳室全角後角の白質部の変化に相違はなかった。大脳皮質に関しては、頭頂葉において明かに信号強度の上昇を認めた。上記の結果は直接的なダウン症候群の痴呆原因を明確にするものではないが、痴呆に関連する中枢神経変化の一部と考えられた。11C-(S)ニコチンによるニコチン受容体の定量的検討を目的にしたポジトロンエミッショントモグラフィー(PET)による検討は1例しか施行していないが、成人対照4例に比較して、大脳皮質の11C-(S)ニコチンの取り込みが上昇していた。この症例は痴呆が発症しつつあると思われる症例であった。したがって、痴呆発症直前直後の病態では大脳皮質のニコチン受容体の量的ないし質的変化が認められることが予想された。この推論に従えば、この結果は痴呆の早期発見に結び付く可能性を示すものであり、11C-(S)ニコチンPETは将来の痴呆の早期診断法として有力となる可能性があると思われた。
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