研究概要 |
放射性アイソトープ標識モノクローナル抗体は、治療用beta線放出核種で標識することにより、内部照射療法(radioimmunotherapy)へ応用可能である。しかしながら、タンパクとの安定な標識方法は未だに確立されていないため、ベンジルEDTAをキレート骨格とし、炭化水素型スペ-サを含む従来のキレートとは全く異なる化合物を開発した。(maleimido-C10-benzyl-EDTA,以下C10)。本研究では、この化合物と抗体との反応条件の決定および標識抗体の体内動態の評価を担癌ヌードマウスを用いて基礎的に従来法と比較検討した。 1.本研究の化合物C10はマレイミドを官能基として有し、常温でチオール基と特異的に結合する。抗体ヘチオール基を導入するための至適条件は、抗体対2-メルカプトエタノール比1:1000であった。還元化抗体とC10の反応は、モル比1:1で、緩衝液は中性付近(pH6.5-7.5)のリン酸緩衝生理的食塩水が適していた。 2.キレート部分であるベンジルEDTAは、従来用いられてきたDTPA化合物よりも金属アイソトープとの配位結合がはるかに安定で、緩衝液中、キレート加緩衝液中さらに、血清中でキレートからのアイソトープの遊離現象(transchelation)は、96時間まで皆無であった。 3.抗大腸癌モノクローナル抗体A7とヒト大腸癌LS-180移植のヌードマウスをモデルとして体内分布実験で、DTPA化合物を用いた従来のインジウム(In-111)標識法とC10の場合を比較した。C10では、血中放射能半減期は144時間→74時間と約1/2に短縮され、肝臓などの非標的臓器放射能は約1/2〜1/3に低減されたが、標的臓器の腫瘍集積放射能は、高値に保たれた。したがって、診断目的には良好な腫瘍の検出が期待でき、一方治療の目的に用いれば、正常臓器への被曝を低減する効果が期待できた。
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