痴呆症などの各種脳疾患とアセチルコリンレセプターとの関係について議論されているが、ニコチン様アセチルコリンレセプター(以下ニコチンレセプター)については血液脳関門を透過し得る受容体結合試薬が知られていないこともあり、特にin vivo研究で今後の成果が期待されている。そこで本研究の目的を、ニコチンレセプターに対する新規核医学診断薬を開発することにおいて研究を行った。すなわち、母体化合物としてニコチンを用い、化学的安定性等を考慮した5-ヨードニコチンを、トリブチルスズ体を前駆体とする方法で合成した。本化合物は不斉炭素を一つ有するため光学異性体が存在するが、前駆体である5-ブロモニコチンの段階で分別再結晶法により光学分割を行った。得られた(S)-5-ヨードニコチン及び(R)-5-ヨードニコチンを用いて、ラット大脳皮質レセプター画分におけるH-3-シチジンの結合に対するIC_<50>を求めたところ、(S)-5-ヨードニコチンは(S)-ニコチンと同等の阻害活性を有することが認められた。さらに、I-125で標識された(S)-5-ヨードニコチンによるin vitro ARGの検討の結果、視床に最も高い特異的結合が認められ、その値は大脳皮質の約2倍であった。この事は文献的なニコチンレセプター分布に良く一致する。次いでインビボにおける本化合物の有用性について、正常マウス及びラットを用いて本標識体の脳内分布をインビボARG法により検討した。その結果、投与10分後において視床および大脳皮質に高い取り込みが認められ、インビトロARG法により検討した結果と良く一致した。これにより、本化合物を用いたSPECTによる核医学診断へ適用し得るニコチンレセプターイメージングが可能であると考えられた。
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