[目的]持続吸引による、より簡便な伸展固定法を考案し、現在の加圧法では手技が煩雑となる摘出肺にたいして応用を試みる。今回は、持続吸引による気道から肺内への固定液の移動の有無を検討項目とした。 肺疾患の摘出肺のうち、原疾患の病理診断に関与しない部分を葉単位に分離し検査標本とした。新鋭工業社製TAF5000F吸引器内にエチレングリコール50%、エタノール25%、ホルマリン10%、水15%で調整した進展固定液と摘出肺とを十分に水浸するまで注入した。30mmHgの陽圧注入で肺胞破壊が生ずるとされるため、今回は25mmHgにて持続吸引を行い、気道から肺内への固定液の移行の有無を検討した。持続吸引24、48、72時間ごとに3方向の測定を行い伸展度の評価とした。 [結果]今回の吸引圧においては、各測定時の測定値はいずれの方向においても水浸時の0.2倍以下であり、満足できる伸展度は得られなかった。また経時的な伸展の増強もみられなかった。 [考案]今回、持続吸引により十分な伸展がえられなかった原因としては、肺コンプライアンスに対し吸引圧が充分でない可能性と固定液に接触した肺表面の固定が同時に進行するため、肺コンプライアンスが上昇し、気道から肺胞への固定液の流入が得られないことの2点が主因と考えられる。今後、伸展度を向上させるためには、1)持続吸引圧の増強による進展度の変化、2)気道からの補助的な加圧注入の併用、3)肺表面が固定液に接触しないように表層を被ったうえでの持続吸引などを加えたうえでの評価が有効と考えられる。
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