研究概要 |
強い抗うつ作用を有する内因性メチル基供与体であるS-adenosyl-L-methionine(SAM)の急性および慢性投与が、脳内ドーパミン(DA)神経機能に与える影響を、ラット線条体、前頭前野および側坐核においてin vivo dialysis法(HPLC-ECD)を用いて検討した。 1)SAM(250,100mg/kg)の急性腹腔内投与後に、前頭前野において用量依存的にDOPAC、HVA濃度の増加およびDA濃度の減少が一過性にみられた。しかし、線条体と側坐核では急性投与によるDA代謝の有意な変化は認められなかった。この反応の違いは、SAMの基質であるCOM活性の部位間差に基づく可能性がある。 2)SAM(250mg/kg)の14日間慢性腹腔内投与後に、透析液中の10^<-5>M apomorphineへの20分間の暴露によるDA自己受容体刺激を行なった。その結果、SAM慢性投与群では細胞外DA遊離の抑制率がvehicle投与対照群に比較して、3部位すべてにおいて有意に低下していた。これらの結果は、SAM慢性投与後にDA自己受容体の低感受性(もしくは機能低下)が生じていることを示している。一般に、DA遊離促進剤もしくは再取り込み阻害剤の慢性投与後に、DA自己受容体機能低下が生じることが知られており、逆耐性およびDA神経系の機能亢進の発現機序に関連するものと推定されている。SAM急性投与実験の結果から、SAMは細胞外DA濃度の変化をもたらすことなしに、同様な機能変化を引き起こすことが明らかになった。これらの所見は、SAMの抗うつ作用の発現機序に関連しているものと考えられる。
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