研究概要 |
FK506結合蛋白質群の研究はこの数年の間に急速に進展し,ほぼ調べつくされた感がある(Eur J Biochem 216:689-707.1993).これら蛋白質群の中に熱ショック蛋白質HSP56と同一の分子種が見つかり,さらに主要な熱ショック蛋白質であるHSP73,HSP90と複合体を形成するとの報告がなされた.そこで,今年度はまずFK506腎症モデルをラットで作製して形態像を観察し、HSP73とHSP90の局在変化について免疫組織学的方法で経時的に調べた. モデルの作製はYamadaらの報告(Transplant Proc24:1396-1398,1992)に従って、ラットにFK506を投与とした.形態像の観察ではシクロスポリン腎症で記載されているような細動脈の病変(硝子様物質の沈着)をしばしば認めた.一方、Yamadaらの報告した傍糸球体装置の過形成,近位尿細管上皮細胞の障害像は観察されなかった.また,血液と尿の生化学的検査でも腎機能以上は認めなかった.HSP73とHSP90の腎内誘導と局在変化はなかった. これまでの研究結果から,腎毒性物質による尿細管上皮細胞障害モデルで,HSP73とHSP90が障害細胞内に短時間の内に誘導されて細胞内局在を変化させることを報告してきた.HSP73とHSP90が今回のFK506腎症モデルで変動を示さなかったことはFK506の尿細管上皮細胞に対する毒性はそれ程強くないことを示唆する.しかし,ミクロスポリン腎症モデルに出現する類似の血管病変を認めたことから,FK506を使用する際に十分な注意が必要であると思われた.
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