研究概要 |
1.ヒト腎DHP-1に対するポリクロナール抗体を用いた免疫組織染色で,回腸吸収上皮表面と腎近位尿細管上皮表面が強く染色され,胃,空腸,胆嚢,虫垂,結腸では染色性が弱かった.また毛細血管内皮も染色され,胃では壁細胞が染色された.すなわち,ヒトでは吸収上皮表面と毛細血管内皮と胃壁細胞にDHP-1は存在することが判明した. 手術時に得られたヒト回腸,虫垂,結腸,腎におけるDHP-1の生化学的活性は,回腸では479.2±188.7mU/g・tissue,腎臓は259.8±52.1,虫垂は31.5±21.8,盲腸および上行結腸は64.0±17.0であり,回腸におけるDHP-1活性は他の組織に比べて有意に高値を示した(p<0.01) 回腸潅流実験では,4種類のcarbapenemsについて検討した結果,MEPMおよびPAPMは潅流3分〜5分でIPMに比して有意に高い残存率を示し,L-627はその中間の残存率を示し,薬剤の化学構造による差が認められた. 急性虫垂炎における炎症の程度とDHP-1活性の関係では,組織学的に高度炎症例では129.6±26.1mU/g・tissue(n=7)と,他の群(n=19)より有意に高値を示した(p<0.01).中等度炎症例でも63.7±19.7(n=8)と,組織学的に異常のない症例(n=5)に比して有意に高値を示した(p<0.05).高度炎症例ではlysozyme活性も19.3±10.8mug/g/tissueと,正常に比して有意に高値を示した(p<0.05).抗菌薬による治療が行われなかった虫垂では,DHP-1活性とlysozyme活性の間にr=0.895の正の相関関係を認めた(p<0.01)治療が行われた虫垂でもr=0.79の正の相関を認めたが,lysozymeの活性の値は低値であった. 以上より,ヒトでは,腎皮質よりも回腸でDHP-1活性が高いことが明らかになり,優れた抗菌力と広域抗菌スペクトラムを有する抗生物質であるcarbapenemといえども,体内における分解が腎以外でも起こる可能性が示唆され,外科感染症における治療上の問題の一つであることを明らかにした.
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