【目的と方法】腕神経損傷の中でも神経根引き抜き損傷は、脊髄硬膜内損傷であり、その修復は不可能とされる。しかし、本損傷は、節前損傷であるため、脊髄後根神経節及び末梢知覚神経は生存している。私は、末梢神経の切断縫合後にいわゆるmisdirectionが起こり、知覚神経線維が運動神経髄鞘内に迷入することに着目し、本損傷に対して、再建を目的とする筋の支配神経を一度切断し、再縫合することで故意にmisdirectionを起こし、後根神経筋による運動単位を形成させるという実験を試みた。実験動物として250〜300gのラット16頭を用い、腹腔内ネンブタール麻酔下に、腹臥位にて、手術用顕微鏡を用い、無菌的に操作を行った。まず、第4、5腰椎(L4、5)の椎弓切除を行い、一側のL4、5神経根を約1cm切除し、創を閉鎖する(神経根節前損傷の作成)。次に、一方の坐骨神経を露出後、切断し、180度回旋を加えて神経上膜縫合を行う(A群)。処置後、8、12週後に、坐骨神経を露出し、大転子部を刺激点とする前脛骨筋、腓腹筋の誘発筋伝図検査を行う。同時に筋そのものの電気刺激を行い、筋の反応性をみる。前脛骨筋、腓腹筋を摘出した後、その湿重量を測定し、筋及び脛骨、腓骨神経の組織学的検索を行う。コントロールとして、筋前損傷のみの群を8頭作成し(B群)、同様の検索を行った。【結果】処置後8及び12週において、坐骨神経を刺激点とする誘発筋電図検査では、B群と同様、A群においても明らかな誘発電位は得られなかったが、筋の直接刺激において、A群において、筋の収縮がみられた。また、健側と比較した筋湿重量の検索でもA群ではB群に比較し、有意に大きかった。組織学的検索においては両群に明らかな差はなかった。以上の結果より、後根神経筋による新しい運動単位の形成は起こらなかったが、本法が脱神経による筋の萎縮にあ対して抑制的に働いている可能性が示唆された。
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