研究概要 |
人体内より抽出したポリエチレン粒子がマクロファージに与える影響を生化学的、形態学的に分析した報告はない。今回我々は、人工股関節周囲の膜様組織より採取したポリエチレン粒子がマクロファージに与える影響を生化学的、形態学的に分析した。まず人工股関節再置換術時に採取した膜様組織をパパインで処理し、ポリエチレン粒子を抽出した。次に、正常人の末梢血より採取した3X10^6Cellsのマクロファージに、抽出したポリエチレン粒子と0.81マイクロン,5マイクロンの2種類のサイズのラテックス粒子を0.1mg/ml,0.5mg/ml割合で加え、24時間培養しその上清中のIL-1,IL-6,TNF-alphaをELISA法にて測定した。尚、粒子を加えなかったマクロファージをコントロール群として用いた。一方、ポリエチレン粒子を貪食したマクロファージの形態学的変化を走査型電子顕微鏡及び透過型電子顕微鏡を用いて観察した結果、抽出したポリエチレン粒子の平均サイズは0.5マイクロンで90%以上の粒子は1マイクロン未満であった。コントロール群と比較し、抽出したポリエチレン粒子を加えたマクロファージでは、サイトカイン(IL-1,IL-6,TNF-alpha)が有意に高値を示した。形態学的には、0.5マイクロン未満の粒子はpinocytosisとしてマクロファージに取り込まれ、0.5マイクロン以上のものはphagocytosisとしてマクロファージに取り込まれていた。さらに、抽出したポリエチレン粒子を加えたマクロファージでは、タンパクの合成の場と考えられるthe cellular synthetic machinery(the R.E.R.)が有意に増大していた。 (ポイント):人工股関節周囲の膜様組織より抽出したポリエチレン粒子の平均サイズを明確とし、これらの粒子がマクロファージに生化学的、形態学的変化をもたらすことを証明した。 (臨床との関連):人体内で形成されるポリエチレン粒子が光学顕微鏡レベルでは把握できないほどの大きさで有り、人工関節周囲の骨吸収に関与していることをより明確とした。
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