重篤な慢性閉塞性呼吸器疾患を合併する症例の麻酔管理においては、患者が低酸素状態に陥ることもあるが、低酸素状態において気道平滑筋の薬物反応性がどのように変化するかはほとんど知られていなかった。エンドセリン-1(ET-1)は強力な気道平滑筋収縮作用を有し、気管・気管支痙攣の誘発物質の一つと考えられている。一方、Ca拮抗薬は気管平滑筋弛緩作用を有し、気管・気管支痙攣の治療に有用との報告がある。そこで本研究では、低酸素下においてニカルジピン(Nc)のKCI、ET-1収縮に及ぼす影響を比較検討した。 その結果、(1)KCIの収縮反応は低酸素により有意に抑制された。(2)ET-1の収縮反応は低酸素により影響されなかった。(3)Ncの前処置は濃度依存的にKCI収縮反応を抑制した。10^<-7>Mの前処置でKCIの収縮反応ほぼ完全に抑制され、10^<-6>Mの前処置ではKCIによりわずかに拡張反応がみられた。Nc 10^<-6>Mの前処置ではKCIによりわずかに拡張反応がみられた。(5)Nc10^<-6>Mの前処置は酸素化下では低濃度ET-1収縮反応を抑制し、低酸素下では高濃度ET-1収縮反応を抑制した。これらの結果より、低酸素時においては、電位依存性Caチャンネルの機能は変化し、Ncの収縮抑制作用は増強するため、低酸素状態を伴う重篤な気管・気管支痙攣の治療に有用である可能性が示唆された。 以上の結果より、低酸素時の気管平滑筋における電位依存性Caチャンネルの役割は正常時とは同一ではないことがわかった。 上記の成果は第40回日本麻酔学会総会において発表した。現在、さらに検討を加え英文誌に投稿準備中である。
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