研究概要 |
(1)当教室で施行した腸管利用尿路変向術(Kock pouch,Indiana pouch,回腸導管)後患者の尿中分離細菌を調査した.尿定量培養(患者1人当たり複数回を含む)の結果,回腸導管からは99%細菌が検出され,複数菌感染の比率が高かった(29%)のに対し,Indiana pouchでは26%, Kock pouchでは8%が無菌尿であった.またKock pouch,Indiana pouch では単独菌感染が多く,尿中細菌数にも大きな違いはなかった.尿中分離菌種の分布は3群間で大きな差は認めなかった. (2)Kock pouch,Indiana pouch患者でのパウチ内結石の発生状況を調査した.パウチ内結石はKock pouch患者の42%,Indiana pouch患者の13%に発生し,Indiana pouch患者での発生頻度が有意に低かった.この差はKock pouch内に存在する異物(金属ステープル等)によると考えられた.結石分析の結果,struvite±carbonate apatiteを主成分とする感染結石の頻度が高かったが,calcium oxalate/calcium phosphateのいわゆる代謝結石も認められた. (3)腸管を利用した尿路変向術に伴う代謝異常の結果として代謝結石が発生した可能性を検討するため,24時間蓄尿し,尿路結石危険因子(カルシウム,燐酸,尿酸,蓚酸,クエン酸,マグネシウム)の尿中排泄量を測定した.その結果,Kock pouch,Indiana pouchでは回腸導管に比べ有意に尿中のCa,P,Mgの排泄量が多く,腸管からの尿中諸物質再吸収による代謝異常の可能性が考えられた.尿中蓚酸は異常なし.尿中クエン酸は個体差が大きく,細菌によるクエン酸分解の影響が考えられた.これらの尿中諸物質排泄量に明かな経時的変化は認められなかったことから,代謝異常はパウチ粘膜の萎縮にもかかわらず術後長期間継続すると考えられた. (4)尿路感染症防御機構として,腸管からの免疫グロブリン分泌が重要と考えられる.上記の24時間蓄尿を用いて尿中slgA排泄量を測定した.その結果,Kock pouch,Indiana pouchでは回腸導管に比べ有意に尿中sIgA排泄量が多く,感染防御に重要な役割を果たしていると考えられた.また主に結腸を利用するIndiana pouchのほうが,回腸を利用するKock pouchよりも尿中sIgA排泄量が多い傾向が認められた.尿中sIgA排泄量は個体差が大きく,尿中細菌の種類・濃度にも相関せず,また(3)の尿中諸物質排泄量と同様,経時的変化は認められなかった. 以上の研究結果は,現在3篇の論文(うち2篇は投稿中)にまとめている段階である.
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