われわれは、フィブリン接着剤の声帯粘膜創傷治癒への影響を、声帯粘膜波動および組織学的に評価し、フィブリン接着剤の音声外科への応用の可能性を検討した。 成犬を使用し、ペントバルビタールで静脈麻酔後、喉頭展開し、顕微鏡下に両側声帯を声帯膜様部中央でかん除により画一的損傷を与えた。ここでフィブリン接着剤を左側声帯損傷部位に直接表面塗布した。右側声帯損傷部位については塗布せずにコントロールとした。 術後1週、2週、3週、5週後に喉頭顕微鏡下に肉眼的に観察し、さらに各週ごとの喉頭を摘出後、両側声帯突起部を縫合し声門閉鎖させ、加湿加温した空気で吹鳴させた。声帯振動を上面より超高速度カメラを用いて3000コマ/秒にて映画撮影後、声帯膜様部全長を3等分し、前より3分の1の点、後より3分の1の点を左右それぞれにつきフィルムモーションアナライザーを用い各コマごとにX軸、Y軸成分に分けて声帯振動解析を行った。さらに声帯損傷部について連続切片を作成し、病理組織学的評価を行った。 喉頭顕微鏡下観察においては、術後2週で塗布側、非塗布側ともに滑らかに上皮化した。超高速度映画のフィルムモーションアナライザーによる声帯振動解析では、術後5週で塗布側で振動が大、波形は定常の良好な粘膜波動が認められた。病理組織学的検討では、術後2週で非塗布側で膠原腺維増生を認めた対応部位において、塗布側では膠原腺維の増生は弱く、細血管増生、炎症細胞浸潤が見られ、炎症性肉芽性で、腺維化の程度が軽減された可撓性の良い粘膜として治癒する可能性を示した。 フィブリン接着剤は創傷治癒に好影響を与えることが示唆され、臨床への応用が期待できるものと思われた。
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