研究概要 |
三叉神経脊髄路核における歯痛伝達機構に対する迷走神経求心路の修飾作用を、ネンブタール麻酔のラットを用いて電気生理学的に解析した。開口反射(顎二腹筋の筋電図)の閾値を指標として、上顎切歯歯髄に電気刺激(閾値の3.5-5倍)により侵害刺激を与えて歯痛伝達ニューロンを興奮させた。刺激に対する応答は、三叉神経脊髄路吻側亜核(Vspo)に刺入したタングステン微小電極よりユニット放電として記録した。 Vspoで記録されたユニットの84%(22/26)は、頚部迷走神経(外科的に切断した中枢端)の条件刺激(333Hz、5pulse、0.5mA)により刺激間隔20-150msec の間抑制され、20-50msec において最大抑制を示した(36±3%)。この刺激間隔において、迷走神経刺激強度依存性(0.05-0.5mA)に抑制率は増大したが、15%(4/22)のユニットは刺激強度が弱い場合、放電頻度が促進された。残りユニットの4%(1/26)は促進のみ、12%(3/26)は無反応だった。顎二腹筋の筋電図の振幅は、抑制の見られたユニットと同様の時間経路で抑制された。 つぎに、条件刺激の頻度を迷走神経の生理的発火頻度で持続的に刺激する(10-30sec)と、Vspoのユニット放電は条件刺激の頻度(10-50Hz)、強度(0.05-0.5mA)依存性に抑制され(4/5)、この効果はナロキソン(0.5mg/kg,i.v.)により減弱する傾向を示した。さらに、右頚静脈から右心房に留置したカテーテルより、5%Ficollを全血液量の5-10%/2-3min注入して、生理的に心臓及び肺に分布する圧受容器からの迷走神経求心路を刺激した。刺激後、Vspoの応答は容量依存的に抑制が見られ、この効果は右迷走神経切断により消失した(3/3)。 以上により、迷走神経の求心路は生理的な動作範囲において歯痛伝達ニューロンの活動を主に抑制的に修飾し、その効果は内因性疼痛抑制系を介する可能性が高いと考えられる。
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