咬合力は、顎口腔系の力源である咀嚼筋群の協調活動の結果として発現する。このため、咀嚼筋の強調活動様式と、咬合力の発現様式、たとえば歯列における咬合力の分布様式には、密接な関連があるものと推察される。実際、特定の筋に過緊張が惹起された顎機能異常者にあっては、咬合異常による咬合接触の強さの左右的非対称性の存在が報告されており、咬合力分布様式と筋活動様式の関連が示唆されるところである。 これまで、咬みしめ時の咬合力を定量的に測定することは、きわめて困難であった。そこで著者は、まず感圧フィルム「デンタル・プレスケール」を応用し、各咬合接触部位に作用する咬合力を定量的に測定する方法を開発した。本法は小臼歯においては1歯につき最大100N、大臼歯においては400Nまでの咬合力を定量的に測定しうる性能を有した。 ついで、本法を正常有歯顎者に応用し、種々の咬みしめを行わせた際の咬合力と咀嚼筋活動の同時記録を行った。咀嚼筋活動は、両側咬筋、側頭筋前部および後部より、表面筋電図を導出し、記録した。また咬合力分布は、個々の下顎歯牙に作用する咬合力を記録した。咬みしめは、中心咬合位における両側での咬みしめ、左右各片側での咬みしめを選択した。咬みしめ強さは、咬筋筋電図積分値を指標とし、最大咬みしめの25〜100%の範囲で変化させた。その結果、下顎に作用する咬合力の総量は、各咀嚼筋活動量と良好な相関を示した。また、下顎第二大臼歯に作用する咬合力は、同側の咬筋活動量ともっとも強い相関を示した。一方、第一大臼歯に作用する咬合力は、咬筋のみならず側頭筋とも強い相関を示した。これらの結果は、歯牙の植立位置と筋の付着部位の位置的関係に基づくものであると考察された。 さらに現在、各咬合接触点(面)の方向より咬合力方向を測定するための、種々の試みを行っているところである。
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