義歯床下粘膜に加わる咀嚼時負担圧が、咬合要素ならびに顎堤吸収状態の相違により、如何に変化するか知る目的で、超小型半導体圧力センサーによる測定を行った。30°E1人工臼歯を用いた全部床義歯装着者3名の上下顎大臼歯歯槽頂部、臼歯歯槽頂側方部、口蓋中央前方部について、タッピング、噛みしめおよび、バナナ、かまぼこ、りんご、ピ-ナッツ、レ-ズン、チュービックゼリー^<(R)>咀嚼を行なわせ、その際の床下粘膜に加わる負担圧を動的に測定し、全面平衡咬合、片側性咬合を与えた場合を、また顎堤吸収状態著名な全部床義歯装着者1名と比較検討した。同時にサホンビジトレーナーで下顎切歯点部の下顎運動を記録し、両側咬筋から表面EMGを導出し、以下の結論を得た。 1.咀嚼側の上下顎を歯槽頂部で比較すると、下顎には上顎より大きな圧力が加わる。この傾向はバナナのような軟性食品を除いてみられ、ピ-ナッツ、チュービックゼリーといった硬性、あるいは弾性をもった咀嚼で著名であった。 2.いずれの食品咀嚼でも、咀嚼側直下の歯槽頂部に最も大きな負担圧を受ける。顎堤吸収の著名な被験者では顎堤良好な者に比較して、歯槽頂部側面での負担圧が大きくなる傾向があった。 3.全面平衡咬合を与えた場合、非咀嚼側の圧は咀嚼初期で陰圧が働くものの、作業側がピークを迎える前に正圧に変化する。一方、片側性咬合を与えた場合、非咀嚼側の圧は正圧に転じることなく陰圧のまま次の咀嚼ストロークへと移る。これは、義歯床下粘膜の負担圧分布の立場からみると全面平衡咬合が片側性咬合にくらべて義歯の安定に大きく役立っており、多数歯にわたる平衡側の咬合接触を有する咬合様式が有利と考えられる。 以上の報告の一部は、第87回日本補綴歯科学会学術大会で報告し、論文集に掲載した。 さらに、0°人工臼歯、またリンガライズドオクルージョンについて、あるいは被験者数を増し引き続き検討したい。
|