研究概要 |
下顎位の変化が側頭筋筋線維伝導速度(以下MFCVと略す)に及ぼす影響をみるにあたり,下顎位の垂直的変化に着目した。 顎口腔系に異常を認めない成人正常有歯顎者4名(23〜27歳)を被験者とした各被験者におおよそ1,3,5,8,10,20mmの上顎全歯列被覆型オクル-ザルスプリント(以下スプリントと略す)を製作し,T-Scanシステム(Tek Scan社製)にて咬頭嵌合位での咬みしめとスプリント装着状態での咬みしめが可及的に変化しないようにスプリントの調整を行い,両側臼歯部同時均等接触を与えた。各被験者に6チャンネルの小型アレイ電極を両側側頭筋前部に相当する皮膚表面上に筋線維の走行に沿って貼付し,咬頭嵌合位および各スプリントを装着した顎位,合計7顎位において最大随意収縮強度(以下MVCと略す)の10,30および50%レベルで10秒間の咬みしめを行わせた。得られたデータを各チャンネルについてサンプリング周波数20kHzでA/D変換し,同一の運動単位電位について加算平均処理を行い波形の伝播様相を観察した。MFCVは,隣接したチャンネルから得た加算波形のネガティブピークの遅れ時間から算出した。 側頭筋MFCVは,咬合高怪の増加に伴って減少した。MFCVは筋線維の半径の平方根に比例するといわれていることから,咬合高怪の増加により側頭筋が伸展され,筋線維の直径が減少したために低下したと考えられる。収縮強度別に見ると,10%MVCにおけるMFCVは,30および50%MVCに比べて低くなる傾向を示した。MFCVの低下率は増加高径約8〜10mm付近で変化し,高径が大きくなると低下率が小さくなる傾向を示した。これには,開口時における下顎頭の滑走が筋伸展率を変化させていると推察される。 なお,水平的下顎位の変化のMFCVへの影響については,現在スプリント作製中の状況である。
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