本実験計画では、まずStreptococcus mutansのPAcおよびStreptcoccus sobrinusのPAgをコードする遺伝子を大腸菌にクローニングする予定であった。しかし、本年度はS.mutansのPAc遺伝子のクローニングに成功したが、S.sobrinusのPAg遺伝子のクローニングは現在進行中である。そこで、PAg遺伝子のクローニングに先立ち、既にクローン化に成功しているPAcについて、ミュータンス連鎖球菌の付着能の阻害効果を調べることとした。PAcと歯面の結合には唾液の介在が重要であることから、まずPAcと唾液の相互作用を明らかにするため、現在Pacの機能領域として最も注目を集めているアラニンの含有量が多いA-repeat部分とプロリンの含有量が多いP-repeat部分のそれぞれを含むポリペプチドの断片を遺伝子組み替えにより作成した。さらにこれらの断片を精製し、これらがPAcと唾液の結合状態に及ぼす影響を定性的に調べた。この結果、A-repeat部分を含む断片はPAcと唾液の結合を著しく阻害したのに対し、P-repeat部分を含む断片はその効果を示さなかった。また、A-repeatを除去したPAcに比べて唾液に対する結合能が低下する傾向が認められた。このことから、PAcと唾液の結合にはPAcのA-repeat部分が重要な役割をはたしているものと考えられる。 以上が、本年度における研究の概要であり、これらの結果を踏まえて、今後PAcの歯面付着の主要な機能領域と考えられるA-repeat部分のポリペプチドを用いた歯面コーティングがミュータンス連鎖球菌の歯面への定着に及ぼす影響を定量的に調べて行く予定である。
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