神経筋接合部において、アセチルコリン(Ach)は最も重要な化学的伝達物質であるが、その受容体であるAch Rが、成長時、経年的にどのような変化をするのかは、いまだ不明である。したがってAch Rの動向と筋の組織学的変化や下顎骨の形態学的変化との関係も不明である。そこで今回、成長期ラットを用いて咬筋におけるAch Rの変化と筋の組織学的変化、顎骨の形態学的変化との関係を評価した。 【試料、及び方法】 同一条件下で飼育した3、6、9、12、15週齢、1、3、6、9、15、24月齢のFisher系ラットを屠殺し、咬筋の深、浅層を一塊で採取、OCTコンパウンドで固定後、急速凍結した。凍結切片は薄切した後、Ach E活性の指標としてAch E染色、筋線維の分化の指標としてATR ase染色を行った。また、下顎骨の形態計測においては、浅野の方法を参考にした。 【結果、及び考察】 下顎骨の長さと高さに関する計測結果では、3週齢より15週齢の間に急激な増加が観察され、それ以降は徐々にプラトーに近づいていった。Ach E染色では、筋の中央部にAch Eの高活性な部位が集中していた。また経年的に比較すると、思春期性成長期の筋はAch Eの染色部が楕円形で鮮明に染色され高活性であったが、老齢ラットでは境界線があまりはっきりせず低活性だった。しかしAch E染色部の数は経年的変化は見られなかった。ATP ase染色では、15週齢までは、約2:3の割合でタイプ2Bが多いが、15週齢以降2A、2B共に同様な割合を示した。また、タイプ1は観察できなかった。以上の結果より、下顎骨の長さ、高さは体重変化と同様に、3週齢から15週齢の間に成長量のピークを迎えることがわかった。また筋の組織学的観察では、Ach E活性、筋線維分布比率が経年的に変化することが観察できた。しかし、今回の実験では、下顎骨の形態変化と筋の組織学的変化を関連づけて考察するには到らず、今後、試料数を増やして検討したい。また、顎変形症についても同様に検討したい。
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