口腔内に萌出した歯表面に吸着されている獲得被膜は、歯表面の脱灰と再石灰化に関与してるものと考えられている。唾液の組成がある程度変化しても、歯面に吸着された被膜自体のアミノ酸組成はそれ程大きな変化をもたらすものではないようであり、著者自身の口腔内でウシのエナメル質切片に形成した被膜を掻き取って採取した試料でも、既に発表されている被膜の組成と近いものであることは確認された。また、この被膜を形成するタンパク質成分の中から尿素によって抽出される成分と、歯面を脱灰しない程度に希釈した塩酸によって抽出される成分は非常に近似したアミノ酸組成を示すことがわかった。しかし、物理的に採取した被膜のアミノ酸概形と化学的に抽出した被膜成分の概形とが異なるので、化学的な抽出後にも歯表面に強く吸着されている被膜成分が存在すると考え、それらの成分の回収・分析を試みている。回収量の少ない被膜から更に微量の吸着成分を得るには、分析までの中間手順をなるべく少なくしたいと考え、試料回収法の改良を試みている。歯質の脱灰をともなう操作では、溶出したカルシウムを除去する必要が生じ、この操作によって試料はほとんど消失する。尿素によって成分抽出した後の歯表面から掻き取りを行なった場合、歯面を乾燥した時に析出してくる尿素の結晶は、様々な洗浄方法によっても排除することが出来なかった。そこで、尿素の結晶ごと被膜を掻き取って0.1M酢酸に溶解し、遠心分離によって得られた上清から脱塩用カラムで尿素を除去し、得られた画分を凍結乾燥してタンパク質だけ回収することを考えた。現在この手順による試料回収で、アミノ酸分析が可能か否か検討を重ねている。
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