実験的歯の移動時に伴う骨改造現象、特に骨吸収から骨形成への転換が急速に起こる歯槽骨表面の経時的変化を観察し、セメントラインの形成、その成分、さらにセメントラインと破骨細胞や骨芽細胞の関連性について検討した。 牽引側では、破骨細胞による骨吸収が停止し、吸収窩表面には有機成分に富んだ薄い層(セメントライン)が確認された。このセメントラインには破骨細胞のライソゾーム酵素が多く含まれていた。しかし、今回の研究で免疫組織化学的に検討したオステオポンチン、オステオカルシン、オステオネクチンなどの骨蛋白がセメントラインに特異的に局在している結果は得られなかった。骨形成に関与する成長因子と考えられているTGF-betaの局在を調べた結果、TGF-betaは骨基質だけではなく、破骨細胞やセメントライン上に特異的に局在することが明らかになった。以上の結果は、セメントラインの主成分は、破骨細胞により吸収窩表面に分泌された蛋白質であることが示唆された。これらの蛋白質、特にTGF-betaや酸性ホスファターゼなどには細胞接着に関与するアミノ酸配列があることから、吸収窩表面への骨芽細胞の付着に重要な役割を果たすものと考えられる。さらに、TGF-betaなどの成長因子は、セメントライン上への骨芽細胞の誘導、分化に関与している可能性が高い。 本研究の結果、セメントラインは破骨細胞の分泌蛋白より構成され、その蛋白質は、破骨細胞の消失後、セメントライン上に骨芽細胞の誘導、分化させる因子(カップリングファクター)の役割を果たしていることが示唆された。
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