胃酸分泌細胞は、細胞防御機構を研究する上で最も優れたモデルである。研究代表者(酒井)は最近、ウサギ胃酸分泌細胞膜において細胞防御機構および生命維持機構に関与している塩素イオンチャネル(Cl^-チャネル)を発見した。本研究ではまず、このCl^-チャネルの調節機構をパッチクランプ法により細胞生理学的に解明することを目的とし、以下のような新しい知見を得た。 1.胃酸分泌細胞の細胞防御Cl^-チャネルの活動はGTPタンパク結合を介して抑制された。この調節機構には細胞内サイクリックAMPやカルシウムイオン(Ca^<2+>)は関与しておらず、活性酸素の1種であるスーパーオキシドアニオン(O_2^-)がメッセンジャーとして関与していることが明らかとなった。このようなチャネル調節機構の報告例はこれまでにない。一般に活性酸素は生体の種々の重要な構成成分と反応して、損傷や障害を引き起こすことが知られているが、このような細胞機能調節因子としてのO_2^-の役割は非常に興味深い。 2.GTP結合タンパクとカップルしたO_2^-産生源について検討したところ、細胞内小胞体に存在するシトクロームP_<450>であることが示唆された。 3.一方、このチャネルの活動はプロスタグランジンE_2(PGE_2)により活性化されるが、PGE_2による活性化機構に細胞内Ca^<2+>濃度上昇およびサイクリックGMP(cGMP)濃度上昇が関与することがわかった。胃酸分泌細胞において、PGE_2がcGMPを上昇させるという報告はこれまでになされていない。 また、このCl^-チャネルの一次構造を明らかにするため、抗体の作製にも着手している。現在、チャネル活性を阻害する抗体のスクリーニングをパッチクランプ法により行っている。
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