研究概要 |
平成4年度までの科学研究費補助(奨励A)によって遂行されたグラミシジンSと種々の複合体のX線回折データ収集の後,分子動力学的にシュミレーションされたグラミシジンSの構造を用いて,パタ-ソン空間中ベクトルサーチを行った.しかし,結晶中には最低でも2分子のグラミシジンSが存在しており,明快なサーチピークを得るには至っていない.また,シュミレーションによって得られた構造は,分子内に2つのbetaターン構造を有しており,NMRによって報告されている安定構造の条件を満たすものであったので,ベクトルサーチ用モデルとしては適当であると考えられる.現在は,測定データを分解能で分類し,また,サーチするベクトル長を変化させ引き続き解析を行っている.さらに,グラミシジンS中に存在する2つのオルニチン側鎖をハロゲンを含む酢酸(トリフルオロ酢酸,トリクロル酢酸,モノクロル酢酸等)でブロックした誘導体は,極めて高い疎水性を示すが,その結晶は良好な回折反射を示すことを見いだした.このことはX線構造解析において,ハロゲンを重原子として位相決定できる可能性を示した. また,1992年にHIV proteaseの構造解析に考案された,鏡像体を用いたラセミ結晶の構造解析がグラミシジンSに有効であるか確認するため,エンケファリンとd(CGCGCG)_2の構造解析を行った.その結果,両ラセミ結晶の構造は天然の構造を極めてよく反映していた.このことから,解析がより容易であるグラミシジンSのラセミ結晶を構造解析しても,本来の構造を議論できることを示した.現在,グラミシジンSの鏡像体を合成している.
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