研究概要 |
プロスタグランジン(PG)E_2は、神経系において痛みの伝達や発熱の調節に関与しているが、その作用機序は不明な点が多い。申請者らは既に、PGE_2受容体EP_3サブタイプのcDNAを単離する事から本受容体の一次構造を明らかにしていた。本研究は神経系におけるEP_3受容体の発現細胞の同定とその細胞におけるPGE_2の役割の解明を目的として行った。現在までの研究成果は次の通りである。神経系においてEP_3受容体は、中枢・末梢を通してグリア細胞には発現せず、神経細胞に特異的に発現していることを発見した。末梢においては、神経根細胞、特に侵害受容器の刺激を伝達していると考えられる細胞においてEP_3の非常に強い発現を見いだした。これは、EP_3がPGE_2の痛み伝達修飾に関与していることを示唆するものである。またEP_3受容体は、脳内に広く分布しており、これまでその作用が報告されている以外の部位においても発現していることを発見した。その発現部位は大脳皮質、海馬、嗅球、視床、視床下部、脳幹にわたっていた。なかでも、EP_3受容体は、脳幹の青斑核や孤側核に強い発現を見いだした。これらの知見は、PGE_2が神経系において未知の機能を有している可能性を示唆するものであり、現在、これらの発現部位におけるPGE_2の生理作用を検討中である。また、申請者らはPGE受容体の他のサブタイプ、EP_1,EP_2のcDNAの単離に成功し、その性質を明らかにし、これらのcDNAを用いて、腎臓における各サブタイプの局在を明らかにした。神経系におけるこれらの発現部位の同定についても現在解析を進めている。これらの知見は、従来全く不明であったPGE_2の神経系への作用機構の解明に寄与するものである。
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