低分子熱ショック蛋白質(HSP27)はストレス応答のほか、発生や分化でも誘導やリン酸化が見られ細胞の増殖制御への関与が示唆されてきた。しかし、その機能はまだほとんど明らかでない。そこで、動物細胞にHSP27を高発現させてその機能を検討した。HSP27の発現の少ないヒト不死化繊維芽細胞(KMST-6)に、CMVのプロモーターにヒトHSP27のcDNAを繋いだ発現ベクターをリン酸カルシウム法で導入した。得られた16クローンのうち6クローンがHSP27を高発現していた。これらのクローン種々のストレスに対する感受性を調べた結果、熱ショック、抗癌剤に対しては、最も高発現のクローン1つが抗癌剤に耐性を示したが、他は低発現のクローンと差はなかった。しかし、過酸化水素処理では高発現のクローンは低発現に比べ感受性が約2倍のとなった。同様の過酸化水素に対する感受性の上昇は、マウスのNIH3T3細胞でも認めた。また、過酸化水素処理した高発現クローンではHSP27のリン酸化が起こるが、そのリン酸化体は処理後4時間でも持続的に存在した。さらに、現在HSP27のリン酸化部位を潰した発現系(HSP27の15、78および82のSerがGlyとなるようにした発現系)を用いて調べているが、過酸化水素に対する感受性は高くならない傾向を示している。以上の結果から、HSP27の高発現は酸化ストレスに対して増殖抑制的に働くことが示され、特にHSP27のリン酸化が細胞の増殖抑制に関与している可能性を示した。細胞内の酸化還元状態の変化が細胞の増殖制御に密接に関与していることが明らかになってきていることから、HSP27が非ストレス状態での増殖制御にも関わるのではないかと考えて更に検討している。
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