本研究では、ヒト動脈硬化病巣ホモジネートを感作抗原として8種の酸化LDLに対するモノクローナル抗体DLH1〜8を得た。その中で酸化LDLに対する選択性、抗体価ともに良好なDLH3抗体が、以下に述べるような特徴を有することを本年度の研究から明らかにした。今後、酸化LDL上の修飾様式の解析、血管壁での酸化LDL形成機構の解明、取り込み後のマクロファージ内の酸化LDL代謝について研究を進める上で本抗体が非常に有用であることがわかった。 (1)ヒト動脈硬化病巣を本抗体で免疫組織化学染色したところ、病巣内に多数蓄積しているマクロファージ由来の泡沫細胞内が顕著に染色された。 (2)本抗体は未処理LDL、アセチル化LDL、マロンジアルデヒド化LDLとは反応しない。また、HDLも硫酸銅処理で酸化するとよく反応するようになった。種々のタンパク質やペプチドの存在下、ニ価鉄とアスコルビン酸で種々の脂質を過酸化させると、LDLから抽出した総脂質、及びホスファチジルコリン(PC)を処理したときに抗体との反応性が生じ、他のリン脂質や中性脂質からは反応性は生じなかった。これらのことから、本抗体は、リポタンパク質の脂質過酸化生成物を認識する可能性が考えられる。 (3)マクロファージが染色された病巣はパラフィン包埋した組織標本であったことから、抗原の脂質過酸化生物質がタンパク質と複合体を形成しているため有機溶媒処理で溶出されない可能性がある。ペプチド(HMG-CoAリダクターゼのC末部分、及びアンジオテンシンII)の存在下PCを過酸化しモデル抗原を作製した。このモデル抗原は、サンドイッチELISAでDLH3抗体と各ペプチドに対する抗血清両方に陽性であったことから、PCの酸化物とペプチジとの複合体形成が確かめられた。本抗体とモデル抗原複合体との結合は、ペプチド非結合型の酸化PCにより強く阻害され、また高濃度のコリンでも阻害されることから、ペプチド部分ではなく、極性塩基部分を含め酸化PCが認識されていると考えられる。
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