研究概要 |
リゾリン脂質として、リゾホスファチジルコリン、リゾホスファチジルエタノールアミン(LysoPE)、リゾホスファチジルセリンを用いた。まず、これら脂質の血小板擬集に対する影響を測定した結果、受容体を介する刺激剤であるトロンビンまたはU46619による擬集を50muMまでの濃度依存的に抑制したが、イオノマイシンと1-oleoyl-2-acetyl-glycerol(OAG)の両者による刺激下での、わずかな程度にしか至らない擬集を10〜20muMの低濃度で促進し、この効果はアスピリン処理血小板でも見られた。この結果は、リゾリン脂質が刺激伝達の制御に関与している可能性を示しており、この作用機構を検討した結果、次の知見を得た。 1.いずれのリゾリン脂質も膜流動性をわずかに上昇させた(1,6-diphenyl-1,3,5-hexatrieneを用いて測定)。 2.イオノマイシンによる細胞内遊離Ca^<2+>濃度上昇、OAGによる細胞内pH上昇に、何ら影響を及ぼさなかった。 3.トロンボン刺激下で、ホスホリパーゼ(PL)A_2活性の指標であるアラキドン酸遊離やPLC活性によるジアシルグリセロール生成反応に対して、擬集促進効果の見られた低濃度では殆ど影響を与えず、高濃度で抑制した。 4.イオノマイシンとOAGの両者による刺激による細胞骨格系タンパク質(アクチン、ミオシン)の重合変化に対しても、擬集促進効果の見られた低濃度では殆ど影響を与えなかった。 5.LysoPEの脂肪酸側鎖の結合の違いを、アシル基とアルキル基で比べたが、両者の効果に差はなかった。 6.フイブリノーゲンの結合部位に作用するコンカナバリンAの擬集抑制効果を、リゾリンリゾリン脂質は増強した。 以上の結果より、リゾリン脂質の低濃度での擬集促進効果は、PLの活性化といった刺激伝達過程の初期ではなく、フイブリノーゲンの細胞への結合の促進に基づいていることが示唆された。
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