研究概要 |
悪性腫瘍に対する薬物療法においては,作用部位への送達能を有する薬物担体の開発が望まれている。特に高分子は腫瘍組織の血管系とリンパ系の特徴により受動的に腫瘍へ集積することが知られ,制癌薬の薬物担体として有用であると考えられている。しかしながら,その体内動態は化学的な修飾により変化することが推測され,化学修飾した高分子ハイブリッド医薬の物性や標的部位への指向性を評価する必要がある。本研究では生体高分子としてアルブミン,フェツイン,トランスフェリン及びグロブリンを選び,これらを化学修飾した生体高分子の物性と腫瘍集積性を中心とした体内動態を検討した。その結果次記の新たな知見を得,雑誌論文へ発表した。 フルオレセインイソチオシアネートを用いて生体高分子の蛍光標識体を合成し,これに酢酸,グルタル酸,マレイン酸,コハク酸等のアシル酸を結合させた。生体高分子のアミノ基の大部分は修飾を受けたが,これらの化学修飾は蛍光標識含量に影響しなかった。また,生体高分子の分子径はアシル酸修飾により増大し,立体構造が著しく変化することが示唆された。担癌マウスを用いた検討から,アシル酸修飾した生体高分子は代謝を受け易くなり,血中から速やかに消失することが明らかになった。さらに,生体高分子の正常臓器への分布濃度は,グルタル酸またはマレイン酸修飾により減少したが,腫瘍への分布濃度はアシル酸修飾により変化しなかった。 以上より,生体高分子の腫瘍への分布特性は,グルタル酸またはマレイン酸修飾により相対的に向上することが明らかになった。また,アシル酸による修飾部位はスペーサーとして作用し,生体高分子からの薬物の遊離放出性に影響を及ぼすと考えられる。したがって,これらの化学修飾は,腫瘍集積性と薬物の遊離放出制御機能を備えた,高分子ハイブリッド医薬を分子設計する上で有用であると考えられる。
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