近年、ウルソデオキシコール酸(UDCA)投与後の原発性胆汁性肝硬変症(PBC)患者尿中より、新規抱合型胆汁酸N-アセチルグルコサミニド(NAG)が見出され、本薬物療法と治療効果との関連からその体内動態に注目が寄せられている。本研究では、PBC患者におけるUDCAの代謝プロフィル解析を目的とし、胆汁酸NAGの糖部分一級水酸基を利用した選択的検出指向誘導体化法と、蛍光検出高速液体クロマトグラフィーによる胆汁酸NAG一斉分析法を構築した。 まず、有機化学的手法を駆使して、遊離型、グリシン並びにタウリン抱合型胆汁酸3-および7-NAG標品計18種を合成した。ついで、一級水酸基用プレラベル化剤9-アンスロイルシアニドによる糖部一級水酸基を介した選択的誘導体化法を吟味するとともに、生成する発蛍光性エステルの逆相系HPLCにおける溶出挙動を精査し、一斉分離条件を設定した。本条件下NAGの検出限界は、100fmole(S/N=5)であった。ひきつづき、ODS系カートリッジによる固相抽出法と疎水性ゲルによるイオン交換クロマトグラフィーを組み合わせたクリーン・アップ法を検討し、胆汁酸NAGの高感度分析法を確立した。本法により、PBC患者尿中胆汁酸NAGの測定を行ったところ、UDCA7-NAGが多量に排泄されており、しかもそのほとんどが、グリシンおよびタウリンとの二重抱合体であることが判明した。従来、UDCA投与時の主な代謝経路として3-サルフェートへの変換が知られていたが、今回の結果は、N-アセチルグルコサミン抱合もまた本疾患における主代謝の一つであることを示したものである。本法は、PBCにおける病態、UDCAによる薬物療法の有効性を解明する上で大いに役立つものと期待される。
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