人間にとって最も近距離の環境である衣服用繊維素材は、その素材や織り構造などにより異なる吸水、吸湿性を持ち、この性質の違いが皮膚の温湿度やその変化速度に影響を与え、人間の湿度感覚に関与していることは明らかである。そこで、試料に綿ブロードを選び、吸水度の違いによって、ぬれ感覚はのように異なるのか、更に人間の身体の各部位でそのぬれ感覚の強度は異なるのか、の2点を解明するために以下の測定を行った。 測定環境は環境温度27±1℃、相対湿度55±5%に調整し、被験者には健康な19〜20歳の女子7名を用い、額、うなじ、胸、背中、手、大腿、足の7部位で5段階の吸湿、吸水度に調整した試料布を貼付した場合のぬれ感覚、温度感覚、圧迫感覚、材質感覚に関する官能検査を行った。 その結果、試料に気体水として飽和吸湿していると考えられるcmc近辺においてもぬれ感が増加しており、直径6cmあたり約0.1gの吸湿量であっても、湿度感覚の差を認識できることがわかった。更に、各官能値を従属変数、試料重量を独立変数として回帰式を算出した結果、ぬれ感覚では、身体7部位を比較した場合に、手においてもっともぬれ感を感知しやすいことが明らかになった。ついで身幹部(胸、大腿、背中、うなじ、額)、末端部(足)の順に勾配、回帰係数が小さくなった。温度感覚を部位によって比較した文献はいくつか見受けられ、胸、腹、大腿、下腿の順に感受性が低くなることが知られており、Nadelらの報告と同様に胸、大腿、足の順に感受性が低くなることが確認できた。ぬれ感覚の部位差と温点・冷点の分布数とは、冷点の分布量の多い部位において、ややぬれ感覚が大きいように見受けられるが、必ずしも分布数の大小によって生じるものではなく、ぬれ感覚は温冷感だけでは説明できないことが確認できた。
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