骨格筋が疲労する要因の一つを解明する目的により、電気刺激により筋疲労に至らしめたカエル及びラット骨格筋の筋細胞内膜系を電子顕微鏡により直接観察し、その構造上の特徴の変化(乱れ)と疲労筋における機能的特性との関係を検討した。実験動物より摘出した骨格筋を電気刺激により強制的に収縮させ、最大発揮張力の80、60、40、20、0%にまで張力が低下した骨格筋の内膜系を電子顕微鏡により直接観察した。また、ランニングトレーニングを行わせて筋疲労に至らしめた骨格筋についても検討を加えた。筋疲労の程度が進行するに伴い筋細胞内膜系に乱れが生じ、特にT管(transverse tubules)の配列に顕著な乱れが生じた。この構造上の乱れは疲労の程度と密接な関係があり、筋疲労が進行するにつれてさらに顕著となった。一方で、SR(筋小胞体)に関しては発揮張力が全く生じない程度に筋疲労が進行しても顕著な乱れが生じなかった。T管とSRによって構成されるトライアド(triad)のjunctional gapには筋疲労の影響が認められなかった。電気刺激に変わりランニングトレーニングによって筋疲労に至らしめた骨格筋についても同様の傾向が認められた。 以上のような結果より、骨格筋の疲労には従来より報告されているエネルギー源の枯渇、筋細胞内pHの低下に伴う酵素活性値の抑制、筋細胞膜の刺激伝達不全、等に加えて筋細胞内膜系の構造上の乱れが関与している可能性が示唆された。今後さらにトライアドに存在する2種類のカルシウムチャンネル(ryanodine receptor、dihydropyridine receptor)の機能と筋疲労の関係を明らかにする必要があると思われる。
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