イギリスでは、19世紀を通じてボクシングに関わる刑事事件が発生し、それに対する判例が蓄積されていた。当該年度においては、近代ボクシングの先行形態である懸賞拳闘試合の違法性とスパーリングの合法性をふまえたうえで、近代ボクシングの合法化を認め1901年のロバ-ツ訴訟判断を中心に検討を行った。それを通して、ボクシングの近代化過程における刑法の役割について得られた知見は、以下のようである。 すなわち、まず「ブロ・ボクシング」の合法化にいたる経緯であるが、懸賞拳闘試合が違法、反対にスパーリングが合法との判定がすでに下されていたため、「プロ・ボクシング」の合法化に関しては、懸賞拳闘試合の違法性に該当する治安破壊罪と暴行-故殺罪に関わる要素をできるだけ払拭し、スパーリングに近づけることが必要であった。事実、ロバ-ツ訴訟裁判で争点となったのは、それがファイティングであるか、それとも単なるボクシングあるいはスパーリングであるか、というものであった。ナショナル・スポ-ティング・クラブの規定する「プロ・ボクシング」が合法的なスポーツであり、死因がノックアウト・ブロ-とはいえないこと、この2つの点をもって、被告人の無罪が確定した。そのさいプロ・ボクシングを合法化するための要件となったのは、第一にNSCのルールに見られた「ファイテング」の抑止機能(ポイント制、レフェリー・ストップ、10カウント・ルールなど)、第二に設備・用具における安全性に対する配慮であることがあきらかとなった。これにより、近代ボクシングの成立に関して、刑法が上記のような基準を示し、そのような変革を認めていたを確認することができた。
|