本研究では、日本語学習者の作文活動を対象に、学習ストラテジー観察のためのデータ収集方法の検討およびストラテジー使用に関わる諸要因の抽出を試みた。初級終了程度の学習者3名(英語母語話者)と中級から上級程度の学習者2名(中国語母語話者1名、英語母語話者1名)をインフォーマントし、課題を設定して数回の作文活動を実施、作文の過程の直接観察およびビデオ記録と学習者自身の内省のインタビューを行い、各記録と書かれた作文を主なデータとして収集した。データ収集の方法として初級学習者にはグループでの共同作文作成を課題とし、共同作業の過程の観察を試みたが、これは実験者の影響の少ない状態での学習者の思考過程や判断基準が得られる点でインタビューやアンケートと違った利点があることが認められた。反面、学習者個々の判断とは別に学習者間の心的距離、日本語力に対する評価などがグループとしての判断に強く影響しており、個人の作文過程のデータとして扱うについては考慮すべき問題があるが、学習者相互のやりとりによって新たなストラテジーの認識につながる効果が見られ、ストラテジーの獲得という面で興味深く、教育的意義も認められる方法であると思われる。中上級の学習者に対しては、文字化過程のデータ収集法としてThink-aloud法を試みたが、思考と筆記と発話という3つの作業を同時に制御するのは困難であり、発話は思考過程よりむしろ筆記過程の投影であることが多く、データ収集方法としては検討を要するものであることが確認された。これらをはじめとしデータ収集法の選択や特質について、検討すべき問題点が得られた。またストラテジー使用への影響については課題に対する動機の高さ、学習者の文化的背景の関与がうかがえた。今後の研究でこれらの要因について追求していきたい。
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