がん臨床試験における減量・休薬の主な原因は、副作用、術後合併症、全身状態の悪化である。このような特徴を持つ減量・休薬を補正する統計学的な手法はいまだ確立していない。本研究では、がん補助化学療法の臨床試験において、制癌剤の減量・休薬を考慮に入れた新しい治療効果判定方法を考察した。Motivating exampleとして、日本で行なわれた非治療切除胃癌患者に対する術後補助化学療法の臨床試験を用いた。我々は、まず、臨床試験において観察された減量・休薬の起こり方の特徴を調べ、制癌剤の投与量とPerformance Statusの関係を調べた。その結果、軽度なPS期間(PSが0または1、もしくはPSが一時的に悪化した状態の期間)では、血小板低下、骨髄機能低下、来院せずなどの一過性の症状や偶然要因が多数を占めていること、また、重度なPS期間(PSが2以上となり0や1に回復しない期間)の減量・休薬の理由は、主に、腎不全、消化管出血、経口摂取不能などに代表される漸進性の症状、あるいは、その疑いのある症状による減量・休薬が行なわれていることがわかった。この統計的規則性に基づき、制癌剤の減量・休薬を考慮に入れた新治療効果判定法であるDose-regression解析を正当化する新しいDose-regression Endpointを定義した。Dose-regression解析はDoseとEndpointまでの期間の関係を定量的に評価する。実際の解析は、Doseを時間依存型共変量とする比例ハザードモデルを用いて行なった。従来のintent-to-treat analysisで得られる治療効果に関する知見に加えて、Dose-regresion解析による治療効果判定では、制癌剤の投与量とEndpointの定量的な評価や、副作用を考慮にいれた治療効果判定、投与量と予後因子との交互作用の評価が可能になった。
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