本研究では、視点を拡張した「観察」という概念を導入し、文脈構成の問題を、文と文との自然なつながりという観点から定性的に考えた。そして以下に示す成果を得ることが出来た。この成果を踏まえて、今後新たな構想の下にさらに研究を進めたい。 「観察」とは「ある仮想的な人物(観察者)が作中のある場所(観察場所)から事象とらえる」ことを表す概念であり、本研究において初めて考案された。この概念は、作者の登場人物に対する感情移入度(共感度)と密接な関係がある。すなわち、共感度の最も高い登場人物の位置に観察者は存在する。 この「観察」の概念を用いることにより、ある文からその次の文がどのように解釈されるかを、定性的に求めることが出来る。すなわち、ある文に引き続く文は、「観察者の近くにいる対象の行動」か「観察者の近くにいる対象の知覚事項(=観察者から離れている別の対象の行動や様子)」のいずれかを表す内容になる。 この考えの確からしさを調べるために、これを基にした照応問題解決法を考案して、その有効性を調べた。すなわち、小学校国語の教科書中の物語5編及び市販のショート小説12編を計算機上に蓄積してテキストデータベースを作成し、そこから照応表現を検索して本研究の照応解決法を適用した。この結果、約80%の照応現象を解決することが出来た。
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